昨今の人手不足や働き方改革への対応など、物流業界は大きな転換期を迎えています。物流DXの導入は、これらの課題を解決するだけでなく、業務効率の向上やコスト削減、さらには顧客満足度の向上まで実現できる可能性を秘めています。
しかし、物流DXについて、「導入したいけれど何から始めればいいのか分からない」「具体的な効果が見えづらい」といったお悩みをよく耳にします。
そこで本記事では、物流DXの本質的な意味、その重要性、そしてあなたの企業に最適な物流DXの進め方まで解説します。また、物流DX化に関する国内企業の事例もまとめているため、ぜひ参考にしてください。
物流DXとは?
はじめに、物流DXの意味や定義について解説していきます。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を活用して企業のビジネスモデルや業務プロセス、さらには組織全体を抜本的に変革する取り組みを指します。具体的には、生産性の向上や新たなサービスの創出、効率的な業務プロセスの構築などを通じて、企業の競争力を高めることが目的です。
DXは単なる技術導入にとどまりません。企業文化や従業員の意識も含めた全体的な変革が必要です。例えば、アナログデータをデジタル化する「デジタイゼーション」や、既存の業務プロセスをデジタル技術で最適化する「デジタライゼーション」を段階的に進め、最終的に事業全体を進化させることがDXの本質です。
なお、経済産業省は、DXを以下のように定義しています。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。
参考:経済産業省「デジタルガバナンス・コード3.0~DX経営による企業価値向上に向けて~」2024年9月19日
物流DXとは
物流DXとは、物流業界におけるDXの取り組みであり、機械化やデジタル化によって物流の仕組みを根本から変えることを指します。国土交通省の「総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)」では、以下のように位置づけられています。
単なるデジタル化・機械化ではなく、それによりオペレーション改善や働き方改革を実現し、物流産業のビジネスモデルそのものを革新させることで、これまでの物流のあり方を変革する
物流業界では、「2024年問題」と呼ばれる働き方改革関連法による規制強化や、EC市場拡大に伴う小口配送の増加、人手不足、さらには脱炭素社会への対応といった多くの課題に直面しています。こうした課題解決において、物流DXは重要な役割を果たします。
例えば、AIやIoTを活用した在庫管理システムでは、在庫精度を高めるだけでなく、人手不足問題にも対応可能です。また、GPSによる車両動態管理システムは輸送効率を改善し、コスト削減にもつながります。
物流DXは単なる物流業務の改善ではなく、企業利益の向上や社会課題の解決にも貢献する取り組みです。こうした動きは物流業界だけでなく、サプライチェーン全体にも大きな影響を与えるでしょう。
物流業界の課題とDXが求められる背景
近年の物流業界ではさまざまな課題を抱えており、その解決策としてDX化が重要視されています。実際、物流業界には以下のような課題があります。
- 深刻化する人手不足の課題を解消するため
- EC市場拡大に伴う配送需要増加に対応するため
- 環境負荷軽減と持続可能な物流ネットワークの構築するため
- 物流業界の2024年問題に対処するため
ここでは、物流業界の課題をもとにDXが求められている背景を紐解きます。
深刻化する人手不足の課題を解消するため
物流業界ではトラックドライバーをはじめとする人手不足が深刻化しています。その背景には、以下の深刻な問題があります。
- 長時間労働や低賃金といった厳しい労働環境
- 高齢化の進行に伴う若年層の就業者の減少
このような状況を打開するために物流DXが注目されています。AIやロボットなどのデジタル技術を活用することで、物流や構内物流での省人化を進め、労働力不足を補うことが可能です。
EC市場拡大に伴う配送需要増加に対応するため
近年、EC市場は著しい成長を続けています。小口配送や再配達の増加により、物流業界への負担は深刻化しています。配送ルートの複雑化により、従来のアナログな管理方法では十分な対応ができません。
このような課題に対し、物流DXは効果的な解決策となります。物流DX化により、「配送ルートの最適化」「在庫管理の効率化」「データに基づく運行計画の策定」などの改善が実現できます。
環境負荷軽減と持続可能な物流ネットワークを構築するため
物流業界でもCO2排出量の削減による環境負荷の軽減が求められています。現在は、EVトラックの導入や省エネ機器の活用など、脱炭素社会の実現に向けた取り組みが進んでいます。
これらの物流業界の環境負荷軽減を支えるために物流DXを活用することで、効率的な運行計画の策定やデータ分析による改善が可能となり、持続可能な物流ネットワークの構築につながります。
物流業界の2024年問題に対処するため
2024年からトラックドライバーの時間外労働上限規制が施行されます。この物流の「2024年問題」は、業界に大きな影響を与えることが予想されます。この課題に対応するには、中継拠点の設置やダブル連結トラックの導入、自動運転技術の活用など、業務効率化が必要です。
そこで、注目されているのが「物流DX」。物流DXを導入することで、これらの課題に対応し、持続可能な物流環境を実現できると期待されています。
参考:物流の2024年問題はどうなった?影響・解決策・現状総まとめ
物流DXの種類
物流DXには、具体的に以下のような取り組みがあります。
- 物流分野の機械化(自動運転技術の導入や倉庫内作業のロボット化など)
- 物流のデジタル化(運送状の電子化、AIによる配送ルートの最適化など)
- サプライチェーン全体の効率化(倉庫とトラック間でのデータ共有など)
また、国土交通省の「物流・配送会社のための物流DX導入事例集」には、以下のように分類されています。
配送 | 倉庫 |
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このように、物流DX化には様々な種類の物流ソリューションが含まれます。しかし、種類が多すぎて何が自社に適しているのかわからない方もいるかと思います。そこで、次項では国内における物流DX化やデジタル化の取り組みを一部紹介します。
国内企業の物流DX化・デジタル化取り組み事例
自社で物流のDX化・デジタル化を推進するためには、会社として抱えている課題を抽出し、解決策を検討することが重要です。
その解決策の参考として、ここでは国内企業の物流DX化やデジタル化の取り組み事例を紹介します。
※本事例は、国土交通省の「物流・配送会社のための物流DX導入事例集」を参考にしています。
事例①:物流支援ロボット「CarriRo®」の導入
株式会社ライジングは、工場内搬送の完全自動化を目的に、自律移動型物流支援ロボット「CarriRo AD」を3台導入しました。当製品は画像認識技術を活用し、ルート設定が容易で柔軟に対応可能です。
物流DXとしてのポイントは以下の通りです。
- 搬送業務を効率化:新工場の増設に伴い、搬送時間の増加と人手不足が課題になりましたが、CarriRo ADの導入で完全無人搬送を実現。
- 柔軟なルート設定:画像認識を活用し、ランドマークを利用した自律走行で簡単にルート変更可能。
- 外部機器連携で階層間搬送を自動化:自動ドアやリフターと連携し、階層間の完全無人搬送を実現。
株式会社ライジングによると、配送業務を無人化できたことで、年間3名分(約1,080万円)の省人化に成功。それだけでなく、業務効率の向上も見られ、業務効率化とコスト削減に大きく寄与したとレポートされています。
事例②:自動配車クラウドの導入
スーパーレックスは、配車計画の効率化を目的に、株式会社ライナロジクスの「LYNA 自動配車クラウド」を導入。従来の手動作業は経験や土地勘に依存し、標準化が難しかったが、AIによる自動化で迅速かつ正確な配車計画が可能になりました。
この物流DXの事例のポイントは以下の通りです。
- AI活用による自動配車:何十万通りのルートを瞬時にシミュレーションし、最適な配送計画を提案できます。
- 業務の標準化と引継ぎの容易化:経験が浅いスタッフでもAIがアシストし、精度の高い配車計画を作成できます。
- リアルタイムの管理と調整:車両の稼働状況をグラフ化し、配送ルートの最適化や手動調整を容易になります。
自動配車クラウドを導入したことにより、従来は丸二日かかっていた配車計画の作成が数時間で完了するようになりました。その他にも、業務引き継ぎの効率化や配送ルートの調整に改善が見られました。
事例③:配送ドローンの導入 (先進的技術の事例)
長野県伊那市では、物流DXの一環としてKDDI株式会社と連携し、ドローンを活用した買い物配送サービス「ゆうあいマーケット」を運用していました。2018年の実証実験を経て、2020年に本格導入されたこのサービスは、ケーブルテレビによる注文とドローン配送を組み合わせ、高齢者や買い物困難者を支援する取り組みです。(※現在、ドローンによる配送は休止しています。)
配送ドローンの物流DXとしてのポイントを以下にまとめます。
- ドローンによる無人配送の実現:自律飛行が可能なスマートドローンを導入し、約10km先までの商品配送を実施。
- ケーブルテレビを活用した注文システム:インターネットに不慣れな高齢者でも簡単に利用できる仕組みを構築。
- 河川管理との連携:ドローンの飛行ルートを河川上空に設定し、国土交通省へ監視映像を提供。
実証実験での取り組みだったため、顕著な成果は現れていません。しかし、買い物が困難だった高齢者が手軽に日用品を購入できるようになり、地域の生活利便性が向上した、と報告されています。その背景には、ケーブルテレビを活用した注文方式が利用のハードルを下げ、サービスの定着につながったためと考えられています。
今後も当事例のような先進的な物流DXの取り組みが進むでしょう。また、先進的な取り組みに関する法規制の進展にも要注目です。
物流DX化の進め方ポイント4ステップ
物流のDX化を進める際の手順やそのポイントを解説していきます。具体的な物流DXの流れは以下の通りです。
- 現状分析から課題を抽出する
- 専門パートナー企業を選ぶ
- 戦略や段階的な導入計画を策定する
- 持続可能なシステム・体制を構築して取り組みを実行する
ステップごとにそれぞれ解説していきます。
①:現状分析から課題を抽出する
物流DXを進める第一歩は、現状の課題を明確にすることです。物流業界では「労働力不足」「配送効率の低下」「在庫管理の煩雑さ」など、多くの課題が存在しています。特に、物流の「2024年問題」では、ドライバーの労働時間規制やそれに伴う長時間労働の問題が大きなテーマとなっています。このような課題を解決するためには、データ収集や従業員へのヒアリングを行い、具体的な改善ポイントを洗い出すことが欠かせません。
また、物流DXは単なる機械化やデジタル化ではなく、業務全体のプロセスを見直す取り組みです。課題を正確に把握し、現場の課題解決と経営戦略としての物流DXを連動させることが成功への鍵となります。
②:専門パートナー企業を選ぶ
物流DXの導入には専門パートナー企業との連携が不可欠です。適切なパートナーを選定することで、自社で不足するノウハウやリソースを効率的に補完できます。物流DXのパートナー企業を選定する際には、以下の点を考慮しましょう。
- 企画から運用までをワンストップでサポートできる体制があるか
- リリース後のメンテナンスや運用支援が充実しているか
- 物流業界特有の課題やDX化の知見・成功事例を持っているか
運送業のDX化を成功に導くには、このような信頼できるパートナー企業の選定が重要なポイントとなります。物流DXに特化した企業との協力により、より確実なプロジェクトの遂行が可能になります。
③:戦略や段階的な導入計画を策定する
次に、物流DXの戦略を立案し、段階的な導入計画を策定します。「どのプロセスからデジタル化を進めるべきか」「どの技術やツールを採用するか」といった意思決定が必要です。例えば、トラック予約受付サービスやAGV(無人搬送車)の導入など、自社にとって優先度の高い分野から着手するとよいでしょう。
また、国土交通省では、「物流施設におけるDX推進実証事業」を行っています。そのような国や自治体の物流支援の補助金も活用するとよいでしょう。
物流DXの導入計画には現場従業員との連携も欠かせません。従業員が新しいシステムや技術にスムーズに適応できるよう、研修プログラムを導入し、現場での運用が問題なく進むよう配慮することが求められます。そのためにも②で解説したパートナー企業の選定が重要になります。
④:持続可能なシステム・体制を構築して取り組みを実行する
物流DXは導入しただけで完了するものではありません。その後の運用や継続的な改善が成功の鍵となります。たとえば、AI点呼ロボットやGPS動態管理システムを導入した場合、それらから得られるデータを分析し、更なる効率化やコスト削減に役立てる必要があります。
また、脱炭素社会への対応も重要です。トラック輸送の最適化によるCO2排出量削減やEVトラックの導入などは、その一例です。このような取り組みによって、企業としての利益だけでなく、環境への配慮という社会的価値も実現することが可能です。
物流業界や運送業のDX化における注意点
物流業界や運送業でDX(デジタルトランスフォーメーション)を進める際には、いくつかの注意点があります。これらを押さえておくことで、スムーズな導入と成功への道筋を描くことができます。
物流DX化の目的を明確にする
物流DXとは、物流業界におけるビジネスプロセス全体のデジタル化を指します。運送業のDX化を進めるにあたり、最初に目的を明確にすることが重要です。物流業務の効率化やコスト削減、顧客満足度向上など、具体的な目標設定も必要となるでしょう。
物流DX事例として成功している企業の多くは、現場の理解と協力を重視しています。新しいシステム導入の意図やメリットについて、説明会やトレーニングを通じて丁寧なコミュニケーションを図りましょう。
導入・推進は段階的に行う
また、物流DXは段階的に導入することをおすすめします。一気にすべてをデジタル化するのではなく、小さなプロジェクトから始めて徐々に範囲を広げる方法が効果的です。このアプローチなら、リスクを最小限に抑えながらDXを進めることができます。
物流DXを推進するためには、導入後のサポートも重要です。そのためには、物流業界で実績がある信頼できるパートナー企業を選ぶことも欠かせません。
データ管理の体制を整える
DX化に成功している物流企業は、データ管理体制の整備を徹底しています。物流DXでは、大量のデータを扱うため、セキュリティ対策やデータの正確性の維持が欠かせません。セキュリティ対策やデータの正確性維持のため、システム導入前にルールや方針を明確にしましょう。
データの保存期間や廃棄方法についても、明確なガイドラインを設定することをお勧めします。コンプライアンスの観点から、個人情報保護法やその他の関連法規に準拠した管理体制の構築が不可欠です。
物流DXに関するまとめ
本記事では、物流DXとは何か、その意義や必要性について解説しました。物流業界では、人手不足や配送需要の増加、環境負荷の軽減といった課題が山積しており、それらを解決する手段として物流DXが求められています。
物流DXの具体的な取り組みとして、業務のデジタル化や自動化が進んでいます。例えば、配車管理や運送状の電子化、AI・IoTを活用したリアルタイム配送管理、ロボットを用いた倉庫内作業の効率化などが挙げられます。また、ドローン配送やフリーランスドライバーとのマッチングサービスといった新たな物流モデルも生まれています。
これらの施策により、物流業界は単なる業務効率化だけでなく、コスト削減や持続可能な社会の実現にも貢献できるでしょう。特に、「物流の2024年問題」や「脱炭素社会への対応」といった社会的な課題に対して、物流DXは重要な解決策の一つになります。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。弊社が取り組むAGV(無人搬送車)「CarriRo®」も物流DXの一つです。興味がある方や物流DX化についてお悩みの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。